ある企業での、新入社員にまつわるお話です。
高校を卒業し、現場職として入社した一人の男性社員は、
工場で先輩社員から溶接や機械の部品交換などを教わりながら、
日々仕事を覚えていました。
ある日のこと、屋外での作業を終え、
事務所で一日の作業日報を作成していると、固定電話が鳴り始めました。
「プルルルル……プルルルル……」
ところが、誰も電話に出ようとしません。
先輩社員たちは「電話は後輩が率先して取るもの」
「電話対応も新人教育の一つ」と考え、彼に声をかけました。
「〇〇君、電話に出て!」
しかし、彼は固まったまま動きません。
「はよ取らんと切れるやろ! 受話器を上げるんよ!」
すると彼は、意を決したように勢いよく受話器をつかみ、
なんと、そのまま頭の上まで高々と持ち上げたのです。
その場にいた先輩社員たちは、一瞬何が起きたのかわからず、
目が点になりました。
実は彼、スマートフォンしか使ったことがなく、
固定電話の使い方を知らなかったのです。
先輩たちにとって「受話器を上げる」とは、電話に出ること。
ところが彼にとっては、文字どおり「受話器を上に持ち上げること」だったのです。
先輩たちには信じられない行動でも、
彼は言われたことを一生懸命に実行しただけなのです。
今では、その職場で語り継がれる笑い話になっているそうです。
さて、このお話、皆さんはどう感じましたか?
「そんなことも知らないの?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
でも、考えてみれば、使ったこともないものの扱い方を知らないのは、
決して不思議なことではありません。
私たちはつい、自分が知っていることは相手も知っている、
自分にとって当たり前のことは相手にとっても当たり前だと思いがちです。
特に職場では、「これくらい言わなくてもわかるだろう」
「普通はこうするものだ」という思い込みが、
思わぬすれ違いを生むことがあります。
大切なのは、相手が知らないことを責めるのではなく、
「知らないことがある」という前提で伝えること。
そして、教わる側も「わかりません」「教えてください」と安心して言えること。
世代も経験も違う人たちが一緒に働く職場だからこそ、
お互いの「当たり前」を確認することが大切なのではないでしょうか。
「言ったはず」ではなく「伝わったかな?」
そんな小さな意識の違いが、人を育て、
風通しのよい職場をつくる第一歩になるのだと思います。
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